コロナワクチン接種~低用量ピル服用中の考え方について~

いつも当院をご利用いただきありがとうございます。 またホームページの閲覧をいただきありがとうございます。
今回は低用量ピル内服中にコロナワクチン接種をどのようにすればよいかについて記載していきたいと考えています。当院ではかなりの方にピルを処方していますのでどうぞご覧ください。
★はじめに
低用量ピルを内服されている方でワクチン接種を悩んでいる方の中で最も気になっていることは血栓症の発症ということになると思います。 血栓症を心配される理由としてはいくつか考えられています。
- コロナワクチン接種の副作用の中に血栓症がある
- 低用量ピルの副作用の中に血栓症がある
- コロナワクチン感染の症状として血栓症がある
以上の3点が最も重要な内容になると思います。 まずは一般的な知識から説明していきたいと思います。
★血栓症とは?
血栓症は様々な理由により血液の流れが悪くなり、血液が固まってしまう病態をさします。足などの血管にできる深部静脈血栓症と肺に起こる肺血栓塞栓症が重要です。血栓の話を書きすぎると今回の本題とずれてしまいますので簡単に説明しますが、通常の血栓症では足の痛みやむくみなどが症状として多いですが、胸の痛みや呼吸状態が悪くなると肺の血管に詰まっていることもあり、命にかかわることもあります。その他、心筋梗塞や脳梗塞なども血栓による病気であり、同じように命に係わる病気になります。飛行機などで長時間体勢を変えないで乗っているとおこるのも血栓症です。
血栓症の重要な症状にACHESというものがあります。 下記に示すような症状の“かしらもじ”をとってそのように言われています。
A:abdominal pain (激しい腹痛)
C:chest pain(激しい胸痛、息苦しい、押しつぶされるような痛み)
H:headache(激しい頭痛)
E:eye / speech problems(見えにくい所がある、視野が狭い、舌のもつれ、失神、けいれん、意識障害)
S:severe leg pain(ふくらはぎの痛み・むくみ、握ると痛い、赤くなっている)
参考:日本産婦人科学会編 OC・LEPガイドライン 2020年度版
★低用量ピルと血栓症
低用量ピルを内服している場合には血栓症が起きやすいという報告があります。低用量ピルを内服している場合の血栓症の発症率は1/10000とされており、死亡率は1/10万以下とされています。しかし妊娠中の方や産後の方の血栓発症率の方が高いです。通常の妊娠をされた方の血栓の死亡率は8/10万と考えられており、妊婦さんの方が血栓の発症は高いと考えられます。
低用量ピルを飲んでいる場合には血栓症がのまない方より多いのは事実です。しかし妊婦さんや産後の方よりもかなり低いことが理解できると思います。実際に当院で初めてピルを処方されている方は基本的に血栓のリスクが非常に低いものから開始しています。またOC・LEPガイドラインに沿って処方させていただいておりますのでそうおこることではありません。(ただし他院から処方継続の方やご自身で銘柄を選んだ方、正規品以外を利用している方はリスクが高いです。)
★低用量ピル内服中のワクチン接種について

現在、本邦で承認されて使用されているワクチンには、ファイザー社製、武田/モデルナ社製のワクチンです。今後使用される可能性があるのはアストラゼネカ社製のワクチンがありますが、いずれのワクチンにおいても血栓症の報告はあるようです。
これまでに低用量ピル内服中のワクチン接種患者において血栓症の報告は明らかではありません。実際に血栓症の発症率が上がるかどうかはまだわかっていないというのが現状です。そして低用量ピルを内服している方が内服していない方と比べて血栓症が起こりやすいというのも事実です。
しかし低用量ピルのみが血栓症を起こしやすいという事実は明らかではないため、ワクチン接種をした方のメリットが強いこともあり、厚労省も日本産科婦人科学会も新型コロナワクチンをお勧めしているだと思います。
★コロナワクチン接種時は低用量ピルをやめるべき?
ちなみにワクチン接種の前後でピルをやめるべきかという質問も多く受けますが、血栓症は低用量ピルの内服から3~4か月以内に多くおこると報告されています。また内服期間が長い方が血栓のリスクも下がります。すなわち、一度やめて再度始めるということは血栓のリスクが高いのです。ですからコロナワクチン接種の間に低用量ピルをやめることはご自身を再度危険にさらすことになってしまいます。
なお、OC・LEPガイドラインでもコロナワクチン前後での低用量ピルの中止の喚起は出ておりません。このような理由もあり、ワクチン接種前後の低用量ピルの中止の必要はないと考えます。
★コロナ感染と低用量ピル

ここで説明するコロナ感染とは実際にコロナにかかっている状態を指します。現在は感染者の増加が問題となっておりますが、運悪く感染してしまった場合に低用量ピルをやめるかどうかは迷うところだと思います。 結論から申し上げますと、コロナウイルス感染が起きた場合には低用量ピルは中止する方が良いと考えます。
OC・LEPガイドラインでの喚起を下記に示します。
◎軽症あるいは無症状である場合
OC・LEP(低用量ピル)使用者では、エストロゲン製剤以外の方法についても検討すること。
(低用量ピル以外の避妊方法(=コンドームや子宮内避妊具など)を検討すること)
HRT(ホルモン補充療法)使用者では、エストロゲン製剤を中止するか、または経皮製剤を用いること。
◎軽症でも呼吸症状がある場合、または、重症である場合
OC・LEP(低用量ピル)やHRT(ホルモン補充療法)を中止し、低分子ヘパリンを投与する(抗凝固療法を行う)こと。
上記のように軽症の場合でも呼吸器症状がある場合や重症である場合には低用量ピルの中止がすすめられています。 コロナウイルス感染が起きた場合には低用量ピルを中止しましょう。 また、感染が落ち着き回復した場合には主治医とよく相談の上、再度低用量ピルを再開しましょう。
まとめ
◎低用量ピル内服中でもコロナワクチン接種の意義の方が強いためワクチンを接種することが許容される
◎コロナ感染が起きた場合には低用量ピルを中止する
以上です。 今回は低用量ピルとコロナワクチン、コロナ感染について書いてみました。 参考にされていただければ幸いです。