月経カップとは
ナプキン、タンポンに続いて「第3の生理用品」として注目されてきているのが「月経カップ」です。タンポンと同様に、腟内に挿入するタイプの生理用品で、子宮腟部に装着したカップに経血をためて使用します。
身体への安全性が確立された医療用シリコンなどの素材で作られており、洗って繰り返し使うことができます。
月経カップの構造は、経血をためる「カップ」と、カップが入っていることを確認するための「ステム」と呼ばれる部分からできています。メーカーによって多少形は異なりますが、一般的には釣り鐘型をしています。
ナプキンやタンポンが、経血を「吸い取る」ことによって周りに広がらないようにしているのに対して、月経カップは経血を液体のまま「ためる」のが特徴です。
日本では、フェムテックへの注目とともに、ようやく認知度が高まってきた月経カップですが、実は1930年代にアメリカで発明されていました。当時はまだ固いゴム製で使い勝手はよくありませんでしたが、原形となるカップの形状は現在のものとほぼ同じです。(いきなりフェムテックが出てきておりフェムテックの注釈をいれてください ※:フェムテック(Femtech)とは、「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー)」を掛け合わせた造語です。確立された定義は存在していませんが、一般的に「月経、妊娠、不妊、更年期、婦人科系疾患など女性が抱える健康の課題を、テクノロジーで解決する製品やサービス」を示します。)
第2次世界大戦中のゴム不足により、いったん市場から姿を消しますが、21世紀初めに、医療用シリコン製の月経カップが開発され、再び市場に広まってきました。欧米を中心に多くのブランドが発売され、日本でも衛生用品の個人輸入業者などを介して手に入れることはできていました。2017年くらいから、日本製の月経カップが発売されるようになり、より身近なものになってきました。
月経カップのメリット
- 繰り返し使えるので経済的
月経カップは洗って繰り返し使えるため、1度購入すると数年~10年くらい使用することが可能です。1個3,000円~5,000円と初期費用は掛かりますが、毎月のナプキン代が平均750円とすると、1年分のナプキン代よりはるかにコストは抑えられます。
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繰り返し使えるので環境にやさしい
欧州委員会が行った海洋プラスチック汚染調査では、海に捨てられるプラスチックの第5位が生理用品です。包装紙や吸収体ポリマーなどにも多くのプラスチックが使われています。月経カップは、これらの環境汚染となるごみを排出しません。 - ナプキンやタンポンより長時間続けて使用できる
経血の量にもよりますが、月経カップは最長で8~12時間使用可能です。ナプキンやタンポンのように何度も取り換える必要がありません。休憩がとりにくい仕事や、旅行の時などに快適に使用することができます。 - 経血が肌に付着しない
ナプキンのように外陰部に経血が密着することがないため、肌トラブルの原因になることがありません。経血が流れ出てくる不快感もなく、かゆみや炎症を引き起こすこともないため、特に肌が弱い人にとって非常に使い心地が良いものになります。 - においが出ない
生理中ににおいが出やすいのは、ナプキンやタンポンに吸収された経血が空気に触れて酸化するためです。酸化とともに、雑菌が繁殖して、においの原因となります。月経カップの中は真空(これは本当に正しいでしょうか?本当に真空なんでしょうか?)、つまり経血が空気に触れないため、においがほとんど発生しません。 - 健康管理に役立つ
月経カップにたまった経血を観察できるため、経血量や経血の色が把握しやすくなります。月経カップにはメモリがついているため、1日の経血量を測ることができます。正常範囲の経血量より多かったり、「いつもより多い」時に、異変に気付きやすくなります。 - 海やプールや温泉を制限しなくてよい
タンポンだとひもを伝わって経血が染み出てしまったり、逆に水やお湯が腟内に入ってくる心配があります。月経カップは、正しく装着すれば経血が漏れたり腟内に水が入ることがありません。カップ自体が腟内に収まっているため、外から見えることもなく、周りの目を気にせずに水に入ることができます。現在は水泳選手やフィンスイミング選手などにも使用されるようになってきています。
月経カップのデメリット
- 初期費用が掛かる
月経カップは1個3000~5000円なので、ナプキンやタンポンに比べると初期費用が掛かります。ただ、長い目で見ると最もコストパフォーマンスは良いと言えます。 - 使用するにあたって慣れが必要
月経カップの挿入や取り出しには少しコツがあるため、何度か使って慣れる必要があります。正しく装着しないと漏れてしまうことがあるので、自分なりの着脱の仕方を身に着けていきましょう。 - 繰り返し使うための手入れが必要
月経期間中に毎日消毒する必要はなく、連続して使用する期間中は、取り出したときの水洗いと1日1回の石鹸洗いだけで充分です。新しい月経カップを使う前と、月経期間が終わった後には、煮沸消毒を行います。月経カップを長持ちさせるためには、毎月煮沸消毒をして通気性の良いポーチなどで保管します。 - トキシックショック症候群(TSS)という、黄色ブドウ球菌の産生する毒素が原因で起こる、急性疾患を引き起こす可能性があります。大切なのは、使用方法を守ることです。できればこまめに経血を捨て、使用後はきちんと消毒することが重要です。
- 出産経験や性交渉の経験がない方は腟が広がりにくいため、装着しづらいと感じるかもしれません。
- 月経カップの多くは、人体に安全な医療用シリコンでつくられていますが、ゴムアレルギーがある方は注意が必要です。
月経カップがおすすめな人
月経カップの特徴は、長時間使い続けられることと、激しく動いても漏れる心配がないことです。ある意味、「使用できない人」や「不向きな人」以外のすべての人にお勧めできますが、特におすすめなのは次のような人です。
- 頻繁にトイレに行けない環境にいる人
業務がとても忙しい人、接客業の人、外で業務を行う人、長時間の手術に入る医療従事者など。 - スポーツを行う人
スポーツインストラクターやスポーツ選手など職業としてスポーツを行う人だけではなく、部活や趣味で月経中もいつも通りの動きをしたい人にお勧めです。特に水中で行うスポーツには利用効果が高いようです。ただしスキューバダイビングなどの圧が変わるスポーツではスクイーズという圧変化による損傷が起こる可能性はあるかもしれないので注意が必要です。 - へき地など衛生環境が整っていない場所で仕事をする人
衛生環境が日本のように整っていない国で仕事をする場合にも、付け替えのタイミングやごみの処理を気にしなくてよくなります。 - 子育て中のお母さん
子育て中は自分のタイミングでトイレに行けなかったり、月経中も子どもと一緒に入浴しなければいけないことがしばしばあります。経血が子どもの目に触れたり、湯船のお湯を汚すことを心配しなくてよいため、安心して子どものお世話ができます。
月経カップをお勧めできない人
- 産後6週間未満の人
悪露が完全に終わった後であれば使用は可能です。ただし、分娩時に腟壁への負担が大きかったなどのトラブルがあった場合は、使用しても大丈夫な状態かどうかを医師に相談してから使用した方が安心です。 - 子宮下垂や子宮脱がある人
軽度の子宮下垂であれば使用することは可能です。月経カップが子宮の下垂とともに腟の外に押し出されてしまうようなレベルの子宮下垂や、子宮脱の状態であれば、まずは医師に相談が必要です。
月経カップの使い方
まずは何度か装着と取り出しの練習が必要です。出血がない時の方が練習しやすいと感じるかもしれませんが、経血が潤滑剤の役割をしてくれるため、まったく出血がない時はむしろ入れにくくなります。初めて月経カップを使う時は、月経4~5日目の、ある程度出血が減ってきたころに装着してみるのが良いでしょう。2~3周期練習すれば、正しい位置への装着ができるようになってきますので、初日からトライしてみましょう。
月経カップの入れ方
- 月経カップを扱う時には、まず手をよく洗います。
- 便座に腰かけて足を肩幅くらいに開きます。
- 月経カップを折りたたみます。※
- 親指・人差し指・中指の3本で折りたたんだ形をキープします。
- カップを折りたたんだまま指と一緒に腟内に入れます。
- 指の第2関節くらいまで入ったら指を離します。
- カップが腟内で完全に開いているかを確認します。
- カップの側面にへこみがあったりカップのふちが織り込まれている場合はカップの側面数か所をぺこぺこ押したり、底をつまんで軽く回転させます。
代表的な折りたたみ方は次の3パターンです。(※部分を詳しく解説)
月経カップの持ち方 | 名称 | 月経カップの折り方 |
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Cフォールド | 月経カップのふちを細長く二つ折りにして「C」の形に折り曲げます。 |
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セブンフォールド | 月経カップのふちを平らにして「7」の方氏になるように折り曲げます。 |
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パンチダウンフォール | 月経カップのふちを内側に押し込んで貝のような形を作り聞き手で保持します。 |
月経カップの取り出し方
- まずは手をよくあらいます。
- 便座に腰かけて足を肩幅くらいに開きます。
- リラックスした状態で排便時のようにいきみます。
- 指を腟の出入り口に沿えて、先端のステムが指に触れるまで何度かいきみます。
- 指先にステムが触れたらそのまま側面をたどってカップの底面を人差し指と親指でつまみます。
- カップと腟壁の密着が解除されてカップ内に空気が入ったら、カップ本体を指で折りたたんだまま腟の方向に沿って抜き出します。
- たまった経血を便器などに捨てて流します。
- カップを流水で洗って再度装着します。
- 再装着しない場合はそのまま煮沸消毒をして通気性の良いポーチなどに入れて保管します。
カップの先端のステムはカップを引っ張り出すためのものではありません。カップが腟壁に密着している状態でステムを強く引くと、痛みが生じたりステムが切れてしまうことがあります。ステムはカップの底へ指を誘導するための目印として使いましょう。
※自身で取り出せなくなった場合には月経カップに対する知識をしっかり持っている産婦人科で相談することが重要です。当院では何例かの取り出せなくなった患者さんの対応をした経験があります。
月経カップの選び方
月経カップは、メーカーによって形やサイズ展開が異なります。同じ医療用シリコンでも、厚みや柔らかさも異なるので、自分に合ったものを探してみるとよいでしょう。
初めて使う場合は、まずはサイズが小さめのものから使ってみることをお勧めします。
選び方のポイントは以下です。
- 安全性が証明されている医療用シリコン製のものを選ぶ(素材に証明がついていない激安のものはお勧めできません)
- ある程度弾力性がある(柔らかすぎないもの)を選ぶ
- 骨盤底筋が柔らかい人は大きめのサイズ、骨盤底筋の弾力性がある人は小さめのサイズを選ぶ。
- 経血量が多めの人や多めの日は大きめのサイズ、少なめの人や少なめの日は小さめのサイズを選ぶ。
- 出産経験がある人は大きめのサイズ、ない人は小さめのサイズを選ぶ。
- 子宮口の位置が低い人は、カップの長さが短めの形を選ぶ
まとめ
何度も繰り返して、しかも長期間使える月経カップは、経済的にも環境にも、そして健康にも優しい新しい生理用品です。月経期をより快適に過ごすための、いちアイテムとして活用してみてはいかがでしょうか。